こんにちは、CSジャーナルの大塚です。
今回は、CS実践者インタビューということで、日本でただ一人「カスタマーサポート エバンジェリスト」として活動している藤本大輔さん(現在はコードキャンプ株式会社でCSを担当しながらカラクリ株式会社のCS顧問を務める)と共に、ピクシブ株式会社のコミュニティマネージャーを担当されている塩坪さん・丸山さん・渡部さんにお話を伺ってきました。
ピクシブさんは、世界中のクリエイターにとって創作活動が楽しくなるためのプラットフォーム・コンテンツサービスを提供しています。そして、そのサービスのCSの役割を担っているのがコミュニティマネージャーとなります。
今回のインタビューでは、クリエイターが販売している作品やグッズを購入することができる「BOOTH」。そして画像や原稿をアップロードするだけで簡単にグッズや同人誌を作ることができる「pixivFACTORY」を中心に、コミュニティマネージャーの役割や取り組み。エンジニアともコミュニケーションが取りやすい社内風土。さらにはピクシブのコミュニティマネージャーが考える、今後のCSの取り組みについてお話を伺ってきました。
2014年 pixivのCSとして中途入社。
その後、関連サービスのBOOTH、pixivFACTORYのCSを担当しつつ、お問い合わせ件数の減少や業務を効率よく行うためにプログラミングを学び、反映させている。
現在はpixiv Sketchやpixiv Sketch LIVE、PawooのCS・運営を担当。
参考:https://www.wantedly.com/projects/88806/staffings/388758
2016年 ピクシブに入社。
「pixivFACTORY」のコミュニティマネージャーとして、お問い合わせ対応や印刷所との提携作業の他にも、オペレーション改善のためにエンジニアと開発に向けた取り組みを行う。
ピクシブ株式会社 コミュニティマネージャー 渡部丹生
2016年 ピクシブに入社。
「BOOTH」のコミュニティマネージャーとして、お問い合わせ対応やサービス改善、運営業務の他にも、倉庫サービスでの商品の入出荷管理や問題改善などの取り組みも行う。
売上や次回購入を意識したピクシブのCS対応
大塚
本日はよろしくお願いします!
皆さんコミュニティマネージャーという肩書ですが、意味合いや肩書の由来などはどのようなところからきているのでしょうか。
塩坪
弊社はCSと呼ばれるメンバーの肩書は全員コミュニティマネージャーとなっています。色々なコミュニティを作り上げていくという意味合いがあります。
弊社では、開発とやり取りをしたり、他の職種のメンバーとのやり取りもあります。CSだけに留まらないということも含めて、コミュニティマネージャーという肩書だと思っています。
そもそもユーザーやクリエイターであっても、「BOOTH」や「pixivFACTORY」であっても、クリエイターと作品を買う方も含めて、全てのユーザーを幸せにしたいというのがあります。
クリエイターに対しては、もっと商品を作ってもらえる・売ってもらえる環境を作ってあげたいです。「pixivFACTORY」であれば、もっと創作意欲を湧き立てるようなことをしてあげたいと考えています。
大塚
一般的なお問い合わせを受けるのとは違い、コミュニティ自体を盛り上げるという意味でアクティブな事が多いという事ですね。
塩坪
お問い合わせに返答するだけなら、正直タイピングができれば誰でもできる仕事だと思っています。ただ、そうではなくて「そのユーザーは何をして、どこで躓いてこの問い合わせを送ってきているのか」までを読み解いて、さらにプラスアルファをつけてあげる。というのは弊社CSで意識していることです。
藤本
みんな義務教育を受けているから、日本語が読めて日本語が書ける。だから返信は難しくないと思われてしまうかもしれませんが、それだけではないですからね。
大塚
普段皆さんがコミュニティマネージャーとして一番意識されていることや目標とされていることはどのような事になりますか?営業で例えるなら売上をあげるという目標があると思います。
丸山
「pixivFACTORY」のコミュニティマネージャーとして、お問い合わせ対応や印刷所との提携作業の他にも、オペレーション改善のためにエンジニアと開発に向けた取り組みを行なっています。
もちろん売上は大事です。特に「pixivFACTORY」では同人誌印刷の取り扱いがありまして、今は即売会イベントに向けた入稿〆切の真っただ中です。
入稿が間に合わなかったり、原稿に不備のある同人誌のユーザーへはお電話もしており、その甲斐あって原稿を間に合わせてくれる方も多くいらっしゃいます。
もちろん自分たちもギリギリなので焦ることはあります。ただ、こちらでデータの不備を修正したり、入稿に間に合うスケジュールを案内したりと、1人でも多くの方が自分の本を手に取れるよう努めています。
また弊社のサービスを使いたいと思ってくれたユーザーに対して、毎年たくさんのイベントを繰り返す中で一度だけではなく、二度目・三度目の利用に繋がるよう意識をしています。
お問い合わせを減らすための取り組みとその成果
大塚
渡部さんはそういった点はいかがでしょうか?
渡部
やはりCSの立場として問い合わせ数を減らしたいというのはあります。
問い合わせをいただくということは、何か問題があったということ。問い合わせへ返信するだけで終わり、ではなく、こういった問い合わせを減らすにはどうすればいいのか、日々考えています。
最終的には、ユーザーが問い合わせする必要なく、サイト内で自己解決ができるようしてあげられたらいいな、と思ってます。
問い合わせ件数を日々集計しているので、その数字を見ながら改善ができるようチーム内で話しています。
大塚
例えば、導線を見直してユーザーの方がつまづいていた個所を改善することで良くなった事例などはありますか?
渡部
例えばヘルプウィジェットですね。ページの中でヘルプページへの導線を用意するのも良いのですが、そこのページに関連したヘルプウィジェットをつけることで、直接ヘルプページへの導線を用意することができます。その結果、関連した問い合わせを減らすことができました。
ただヘルプページを追加することは簡単ですが、ユーザーがそのヘルプページにたどり着いてもらえるか?までを考えなければなりません。それを実装したことで数値というのは変わりましたね。
藤本
確かにたくさん情報はあるけど、検索をそもそもされないヘルプページなどもありますよね。
塩坪
新しいリリースや変更点があった時、CSはヘルプページを更新して、つい満足をしてしまいがちです。でもそれがユーザーに届いていないと意味がないので、ヘルプウィジェットを出したり、ヘルプページへの導線を見直したりしています。
藤本
実はピクシブさんの10周年のイベントにも行きましたが、お問い合わせを減らすために開発チームの方も使い易さにはこだわっていたことが印象的でした。
ピクシブが行う相互理解のためのコミュニケーションの場とは?
大塚
CSはエンジニアと多く関わる仕事だと思うのですが、どのようにコミュニケーションを取っているのですか?
塩坪
例えば、ユーザーから来た問い合わせをもとに、CS側で要件をまとめてエンジニアへ提案をします。
時にはどちらも譲らない熱い議論が交わされたりもしますが、仲が悪くなったり喧嘩になったりすることはないです。
あとは弊社は社内イベントがあったり、チームに関係なく飲むことも頻繁にあるので、そこでコミュニケーションを取ってますね。
オフィスでも定時を超えると、飲食スペースでお酒を持ち寄ってピザを出前で取ったりします。
大塚
飲食スペースはあっても使われないことも多いと思います。凄いですね!
塩坪
それ以外でも、色々な方とコミュニケーションを取るようにしています。
ゴミ箱のスペースや冷蔵庫へ飲み物を取りに行くときなど、すれ違う際には軽く話をするようにしています。
大塚
皆さんから積極的にエンジニアの方や周りの方へコミュニケーションを取るというのは大事なんですね。
塩坪
業務以外でもコミュニケーションを取るとだんだんその人の性格が分かってくるので、業務で提案するときもこちらも安心して話せます。
藤本
CSだけで固まりがちな面もあると思いますが、お互いに交流しているという感じですね。
大塚
そうなると席などはどのようになっているのでしょうか?
普段はCSでまとまっているのか、それとも席はバラバラで各自エンジニアの横に行ったりするのでしょうか?
塩坪
CS全員がまとまっているわけではなく、各チームに配置されています。私は後ろにエンジニアがいるので、いつも椅子を引いて聞いています。
丸山
私は開発メンバーと一緒に仕事を進めることが多いので、エンジニアに近い席で業務をしています。Slackも便利なのですが、実装についての細かい疑問は、自分のPCを見せて直接聞いてしまいます。文章化する時間が、ただただコストになる場合もあるので。
大塚
渡部さんはいかがでしょうか?
渡部
私はディレクターが左、後ろにエンジニアがいます。そのためディレクターとの相談もすぐにできますし、何かあればエンジニアとも相談ができる近さではありますね。
大塚
CSがエンジニアやデザイナーと一緒の席の配置は多いものなのでしょうか?
藤本
直ぐに相談できる方が効率は良いので、IT(?)系であれば結構多い印象があります。
「BOOTH」のKPIと目標達成に向けた取り組みの一例
大塚
ありがとうございます。
少し話を変えさせていただき、今CSの中で見ている指標などはどのようなものがありますか?
渡部
「BOOTH」の方は週に一度、一人ずつ持っているKPIを見ています。数値としては発送トラブルや住所変更依頼などがありますが、各カテゴリーのお問い合わせ件数を減らすというのが一つ。
もう一つは倉庫への入荷日数を減らすというのがあり、今はその2つを軸にやっている状態です。
藤本
入荷の日数を減らすというのは、これまで物流の経験があるという事でしょうか?
渡部
全くありませんが、月に1度倉庫には行っています。倉庫の方とも話をしながら、倉庫側の入荷フローの改善はもちろんしました。あとは「倉庫側の方でなぜ入荷遅延が発生するのか?」という根本的な問題も改善しなければいけませんでした。
その問題とはオーナーが商品を倉庫へ入荷するときに、不備があった際の対応方法の指示は、倉庫側の方ではできない。そこで時間がかかり遅延が発生しているということが分かりました。
そこでサイト上では、オーナーは商品不備があった際にどうするかを選択式にしてから商品を倉庫へ送ってもらう。そうすれば私たちの確認がなくても倉庫側の方でオーナーのチェックを見て入荷することができるので、そういったサイトでの入荷・遅延の改善をしていますね。
大塚
それは大幅に変わりそうですね。
藤本
毎回、自分がやらなくても自然と改善をしていく。
「pixivFACTORY」のKPIを月ごとに変えている理由
大塚
「pixivFACTORY」の方はいかがですか?
丸山
「pixivFACTORY」でも「BOOTH」と同じくKPIを設定し、各種改善に取り組んでいます。その上で、我々の場合はクォーター毎に都度KPIや目標値を見直しています。
1つのKPIを何ヶ月と追い続けても、効果的な施策は尽きてしまいますし、ともすればその数値を追うことが目的になりがちです。
漫然と数値を追うのではなく、短期集中的にディレクターやエンジニアを巻き込んで解決策を洗い出し、工数にリターンがありそうな施策を一通り片付けた後は、次に最適な指標を考え直しています。
また、大きな即売会イベントがある月は利用量が伸びるなど、月によって対応件数がかなり変わります。そのため前年の傾向を見つつ、季節性需要などを反映した目標値を設定しています。
藤本
通期の目標と半期の目標、クォーターの目標、一ヶ月の目標など時間軸で変えていくイメージでしょうか。
丸山
そうですね。まずプロダクト自体の目標は各時間軸で存在します。それは流通額であったり利用量であったり様々ですが、この目標値が、その時点での我々の業務量の目安になります。そして、その目標を実現するには、運用面でどのような体制が整っているべきか、業務がどの程度効率化できているべきか、というところへ落とし込んでいきます。
藤本
CSで売上というお話が出てくるのはあまりないですよね。僕はCSが売上や利益を出していこうというのは好きですが、CSが売上アップをする能力があるということはアピールしないと分かってもらえないのではないですか?
塩坪
正直、あまりそう思われていないのが現状なのかなとは思います。
でもお問い合わせの対応一つでも売上は伸ばせるんじゃないかと思っています。迅速かどうかもそうですし、サポートが手厚かったかどうかによって、次に「使う」「使わない」はかなり左右されると思います。
そこで貢献していきたいなと思っています。
まとめ
ピクシブのコミュニティマネージャー皆さんの「全てのユーザーを幸せにしたい」という共通の想いが前提にあるため、そのために自分たちがどのように動くことがユーザーにとって良いのか。その一貫した考え方をとても感じられました。
その結果、チームごとに異なるKPIもユーザーにとってより良くするために設定されています。その中でもコミュニティマネージャー自身も売上を伸ばせるという考え方は、ユーザーが満足して次もまた使いたいと思ってもらうために必要な当事者意識なのだと思いました。
後編の記事では、エンジニアと相互理解を深めるために行うコミュニティマネージャーのコミュニケーション術や、エンジニアへレビューを依頼する驚きの理由、コミュニティマネージャーの枠割などをお話しして頂きました。ぜひ続けて後編の記事もご覧ください。
■大塚 真吾
プロサッカークラブのマネジメント職を経験後、ダイレクトマーケティング支援の株式会社ファインドスターに入社。サブスクリプション型の通販のマーケティングを100社以上支援。2013年、スタークス株式会社に入社し、2016年取締役に就任。現在、クラウド型の物流プラットフォーム「クラウドロジ」とLINE@に特化したCSツール「CScloud」を提供。
またCSJournalの編集長として、さまざまなCS実践者にインタビューを実施中。
■藤本 大輔
1982年 福岡生まれ。テレマーケティング会社で電話営業を経験の後、コンタクトセンター運営会社に移り約10年間大手インターネットサービスプロバイダのコールセンターマネジメントに従事。その後、大手ソーシャルゲーム会社のCSを経て、フリマアプリ運営会社のCSグループマネージャーとしてチャットサポートの導入やCSイベントの開催を主導。現在はコードキャンプ株式会社のCSチームを率いる。本業の他に日本で唯一の「カスタマーサポート エバンジェリスト」として、コンサルタントやCSイベントの企画などで活動中。キャッチコピーは“CSに狂っている男”。