CSジャーナルの大塚です。
今回のCS実践者インタビューは株式会社iCARE(https://www.icare.jpn.com/)の冨樫さん。iCAREは「働くひとと組織の健康を創る」という考えのもと、健康創出を会社の資産に変える、No.1デジタルヘルスケアカンパニー。
今回のインタビューでは、冨樫さんがこれまでの経験で培ったCSが出すべき指標。経営に貢献するCSの数字の出し方やPDCAの回し方。CCOという役職に求められる役割や、なぜZendeskコミュニティーを立ち上げたのかなど、冨樫さんのCSに対する熱い想いをお聞きしてきました。
大学卒業後、コールセンターからキャリアスタート。
スーパーバイザー、グループスーパーバイザーとしてセンターの立ち上げやオペレーション改善に従事。
その後、株式会社エニグモやランサーズ株式会社などの事業会社でカスタマーサポート部門の責任者としてオペレーション改善、監視体制強化、NPSなどを用いた改善を行い事業成長に貢献。2018年4月に株式会社iCARE 執行役員CCO(チーフカスタマーオフィサー)に就任。
カスタマーサービスソフトウェアZendeskのユーザーコミュニティー立ち上げや、コールセンタージャパンが運営する「5年後のコンタクトセンター研究会」などに所属し、幅広く活躍中。
CSが経営数字へ貢献するための数字管理
大塚
本日は宜しくお願い致します!
まずはじめに、CSとの関わりや経歴を教えて頂けますでしょうか。
冨樫
もともと大学の情報学部でプログラミングを勉強しながら、役者の道を目指していました。大学卒業後も役者を目指していましたが、その道を思い直す際に、エンジニアになることを考えましたが、エンジニアとしてやるにはスキルが足りない。
それならテクニカルサポートのコールセンターに入社し、実務経験後にプログラマーやエンジニアになろうと考えました。
それでテクニカルサポートのコールセンターを探していたら、あるインターネットプロバイダのコールセンター立ち上げの募集があり、「権限と裁量を与えられそう」と思ってチャレンジしたのがキッカケです。
大塚
そのプロバイダのコールセンターが最初のキャリアということですね。
冨樫
厳密にいうと、プロバイダが外注しているコールセンターです。電話オペレーターからスーパーバイザー、その後にスーパーバイザーリーダーとキャリアを積みました。
もともと、エンジニアになろうと思っていました。しかしカスタマーサービスの仕事が想像以上に面白く、この世界で生きて行こうと決断しました。コールセンターでのマネジメントを5年間経験したのちに、海外ファッション通販「BUYMA」を提供する株式会社エニグモに入社します。
数社からオファーをいただきましたが、なぜエニグモに入社したかというと、その時の面接の役員の方々がとても魅力的だったんです。この人たちといれば成長出来ると感じました。
当時のエニグモは上場を目指しており、紆余曲折ありながらも4年後くらいに上場します。
エニグモでもずっとカスタマーサービスの責任者として職務を全うしていましたが、上場から1年後に退職をして、ランサーズ株式会社にジョインすることになります。
大塚
ランサーズに入ったことで、CSの違いなどは感じましたか?
冨樫
エニグモの時はメールサポートのみでしたが、ランサーズに入ったら代表である秋好さんから、
・売上を上げるCSになってほしい
・経営に貢献するCSになってほしい
・それを数字で表現してほしい
などと、多くのオーダーをいただきました。
大塚
それはハードルが高いですね(笑)。
冨樫
当時はそのオーダーをもらっても、どのようにしたら良いか分からないので、色々なCSの方に「どのように経営に貢献していますか?」と聞いて回りました。
その中でも、当時ランサーズ株式会社ののマーケティング責任者である根岸さんの話はとても参考になりましたね。「どうすればCSが経営数字に貢献できるか」という相談をして、二人で意見交換をしながら運用を固めていきました。
CSの貢献を数字で出してほしいと言われていたので、例えばインサイドセールスで登録した顧客とオーガニックで登録した顧客を比較して、半年後のLTVはどちらが高いのかを数値化していました。そうなると、インサイドセールスで入った方がLTVが高いということが分かりました。
他にもチャットと電話ではLTVがどのように違うのか。チャットボット経由だとどうなるか。最終的にどうすればLTVが向上していくのか。そういったことを色々と指標化してKGIやKPI、プロセスKPIなど数字管理をしていました。
数字を見続ける日々の中で得た気づきとは?
大塚
それがランサーズさんにいた時ということですね。そこまでLTVに与える影響を可視化してPDCAを回している会社ってないですよね。
藤本
そこまで数字を強くは言われないですよね。あとは数字で出すのが難しいという前提もあります。その辺りはどのようにクリアしていったのですか?
冨樫
それは“地道に”という言葉しかないですね。
例えばチャットであれば、チャットIDが訪れた見込み客に付与されるので、チャットIDをスプレットシートに書き込みます。そしてIPアドレスを入力して、管理画面でユーザーIDを探し出す。
ユーザーIDを探し出した時点で、コンバージョンしているかどうかを全てチェック。していなければ、その人が3日後までにコンバージョンしているかチェックを入れます。
コンバージョンしただけではまだ分からないので、その後のプロセスである支払いステータスで単価がいくらになったかをチェックします。その上で、それが本当にフリーランスのためのお金になっているかもチェックするなど。
これが毎日100件くらい溜まっていくので、それを全てスプレットシートでデータ化してやっていました。
他にも、ランディングページA,B,C×チャット対応実施で、どの組み合わせが最もコンバージョン数やLTVが高いかなどなどを検証したり、要は顧客対応もリスティング広告と同じ要領です。何のメッセージを出したらコンバージョンやLTVがどうなるかを地道に可視化していました。
大塚
普通はランディングページ(以下、LP)のコンバージョンしか見ていませんが、それをチャットという人力でABテストもやっているわけですね。。それはすごい!!
冨樫
そこまでやらないと正しく判断が出来ないと根岸からアドバイスをもらいましたし、自分達のやっていることの説得力がありません。毎週金曜日が報告の日でしたので、木曜日にデータが揃っていないときは夜中までチェックしていました。
大塚
実際にそれだけのデータと向き合って、何か気づきなどはありましたか?
冨樫
データが揃っていれば全ての施策に対して検証が出来ますよね。
「検証」が重要で、ランサーズに入社する前は「CSとして効果が出るかは分からないけど良さそう」という雰囲気でやっていました。ただ、データと向き合い、徹底的に検証することをやったおかげで、施策の効果や価値を明確に伝えることができるようになったのは大きいことだと思います。
大塚
余談ですけど九州の何百億円も売り上げのある通販企業だと、オペレーターの誰が受注をすると一番LTVが良いのか計測されていました。だからコールセンターシステムでLTVの高いオペレーター順に入電が入る仕組みになっていました。
CSで行うPDCAの回し方と数字の見方
冨樫
なるほど。確かにそれが重要なのと、今後は顧客対応者の教育も変わっていくと思っています。
これまでは「俺はこう思う」という雰囲気のフィードバックになりがちでした。そうなると上長の求心力によって納得度合いも決まってしまいますし、質も決まってしまいます。
でも、それが数値上で全て出せると、やり方は変わります。
私は、顧客対応者自身が自分でコンバージョン向上やLTV向上のために、自らPDCAを回して、自ら貢献度を示していくチームにしていこうと思っています。
「今日は●件の電話に対応した」「今日の満足度は●%だった」ではなく、リアルな表現で嫌がられそうですが「今日は●●円の売上に貢献した」「●円の損失を未然に防いだ」「そのために●●をした」などの会話が出来るチームにしていこうと思います。
藤本
もともとコールセンターだと自分の案件の満足度や対応時間などの数字を見れるシステムがあります。でも自分のコンバージョンを自分で見るということはないので、その数字を見てPDCAが回せるようになるのは凄く良いと思います。
大塚
それは受注数字など売上だと分かり易いと思いますが、CSだと売上に繋がる数字ばかりではありませんよね。売上以外でのPDCAも自発的に回せるものでしょうか。
冨樫
難しい質問ですが、結論で言うとPDCAは回せます。
そのためには全てをデータ化するための設計を作る必要があります。データ化が出来るようになると、最終成果に到るまでのプロセスをいくつかに分けるなど、プロセスKPIの設定も出来るようになります。
私はお客様のWEB上における行動を全てデータ化して、そこにカスタマーサービスを提供することで、何がどうなるか、考えただけでワクワクするし、それは実現可能です。それにiCAREに入るときはそれを条件に入りました。
大塚・藤本
おぉ~。
冨樫
社長とCTOからは2年待って欲しいと言われていますけど(笑)。
大塚
それは数字を見られるようにすることですか?
冨樫
そうです。カスタマーサービスの価値を可視化していくためには、エンジニアと一緒になって顧客対応を科学していかなければならない、と思ってます。だから今はエンジニアと一緒に科学していくことをやらせて欲しい。それが可能ならジョインします、という感じです。
エンジニアとCSが顧客対応を科学する
大塚
CSがエンジニアと密接にやるには少し距離が遠いように感じるのですが、一般的にはどうなのでしょうか。
冨樫
おっしゃる通り、距離は遠いです。もちろん近い部分もあるのですが、近い部分はプロダクト設計に関わることは多いですよね。
顧客対応の部分をどのようにコントロールしていくのか。それをやりたいというのはあまり聞かないと思います。
藤本
CSツールを内製している大手IT企業はありますが、その場合は専用のエンジニアがいることはあります。それでも数は少ないと思います。
大塚
プロダクトだけでなく、顧客対応×LTVの科学は個人的にも期待したいです!
冨樫
このiCAREは素晴らしいCTOがいて、一緒に仕事をすることが気持ちいいエンジニアがたくさんいます。今後が楽しみです笑。
藤本
価値として提供するのが、LTVという利益貢献にずっとフォーカスし続けるということですよね。
冨樫
そうですね。まずはビジョン・ミッションの実現、最終的に売上が上がれば良いと思っていますので、弊社ではKGIを「LTV」にして、KPIを「解約率」と「1社あたりの顧客単価」にして運用の設計をしています。
藤本
サービスの利用を継続して頂くというよりは、アップセル・クロスセルで単価を積み上げていける方向を目指しているということでしょうか。
冨樫
どちらも重要な指標としてやっています。
大塚
仮に科学できたとして、人が介入するとスタッフのバラつきが出るかと思います。チャットボットなどであれば機械なので仕組み化できますが、コンバージョンという点において失敗しているという話も聞きます。機械化と人の良さのバランスという意味ではいかがでしょうか。
冨樫
それは本当に難しいところですね。全て決められた状態にしてしまうと、「面白くない」という理由からオペレーターはみんな辞めてしまうと思います。
そのため、どこに人が楽しむ余地を残しておくのか。それも含めて設計をしなければいけないと感じています。もし私であれば、全て決められているセンターであればすぐに辞めると思います。
藤本
最適化をし過ぎると、極論で言うとスクリプトをただ読んでいるだけになってしまいますからね。
冨樫
最低ラインを決めて、プラスアルファで価値を付けられるのであれば「このスクリプトで、この位のコンバージョンが出ている」ということを伝えた上で「でもそれ以上のコンバージョンを目指せるのであれば好きに対応して良い」というのも良いかもしれません。
藤本
分岐点のポイントだけ提示して、その途中は自由にやってもらうということですね。
まとめ
前編では冨樫さんの経歴と合わせて、CSが経営数字に貢献するための数字管理についてお話をして頂きました。そのためには地道に可視化する必要があることや、正しく判断するためにはデータを揃える必要性なども分かりました。
PDCAを回しながら早く解決するため、データを取る必要性。そのためにはエンジニアと一緒に顧客対応を科学し、コントロールしながら、CSで単価を上げることも重要だとお話をして頂きました。
後編の記事では、
・CCOとしての立場と役員として求められる役割
・他社であるZendeskのコミュニティを立ち上げた理由
・CSにマーケティング思考を取り入れることで得られる変化
・CSの価値を高める方法
などを詳しく聞いてきました。
ぜひ後編の記事もお楽しみください。
プロサッカークラブのマネジメント職を経験後、ダイレクトマーケティング支援の株式会社ファインドスターに入社。
サブスクリプション型の通販のマーケティングを100社以上支援。2013年、スタークス株式会社に入社し、2016年取締役に就任。
現在、クラウド型の物流プラットフォーム「クラウドロジ」とLINE@に特化したCSツール「CScloud」を提供。
■藤本 大輔
1982年 福岡生まれ。テレマーケティング会社で電話営業を経験の後、コンタクトセンター運営会社に移り約10年間大手インターネットサービスプロバイダのコールセンターマネジメントに従事。その後、大手ソーシャルゲーム会社のCSを経て、フリマアプリ運営会社のCSグループマネージャーとしてチャットサポートの導入やCSイベントの開催を主導。現在はコードキャンプ株式会社のCSチームを率いる。本業の他に日本で唯一の「カスタマーサポート エバンジェリスト」として、コンサルタントやCSイベントの企画などで活動中。キャッチコピーは“CSに狂っている男”。