写真:大塚(左)/片山氏(中)/藤本氏(右)
こんにちは、CSジャーナル編集長の大塚です。
今回は、CS実践者インタビューということで、日本でただ一人「カスタマーサポート エバンジェリスト」として活動している藤本大輔(現在はコードキャンプ株式会社でCSを担当しながらカラクリ株式会社のCS顧問を務める)さんと共に、株式会社グッドパッチが開発・提供するプロトタイピングツール「Prott(https://prottapp.com/ja/)」のカスタマーサクセスとプロダクトマネージャーを兼務している片山彩夏さんにカスタマーサクセスで活躍をする人材の共有点をはじめ、KPIを定めていない理由やカスタマーサクセスに求められている役割についてお話を伺ってきました。
グッドパッチさんは「Prott」を開発・運営をされているプロダクト事業と、クライアントワークを中心としているクライアントサービス事業の2軸を中心としているUI・UXデザイン会社。
プロダクト事業の中に配置されるカスタマーサクセスチームは、周りのチームと連携しながら多岐に渡る業務を行っています。
社内にUXデザイナーもいるからこそ、カスタマーサクセスにおける立ち位置やUXデザイナーとの違いなど、カスタマーサクセスが存在する意義や周りを巻き込んでカスタマーサクセスし合える素晴らしい会社の文化を垣間見ることができました。
株式会社グッドパッチ カスタマーサクセス 片山 彩夏
学生時代に飲食店やアパレル販売員を経験。大学卒業後、投資用不動産の営業、富士通システムズイーストヘルスケアサポートセンター(現 富士通東日本サポートセンター)にてSEの案件管理サポートに派遣社員として従事。
2016年4月に株式会社グッドパッチへカスタマーサクセスとして入社。現在はプロトタイピングツール『Prott』のカスタマーサクセスとプロダクトマネージャーを兼務している。
他の企業と比べ、多岐に渡るカスタマーサクセスの業務領域
大塚
カスタマーサクセスチームが担っている役割や、行なっている業務はどのようなことになりますか?
片山
大きく分けると、お問い合わせへの対応に一番時間を使っています。あとは機能改善や新機能リリースの際のお知らせを作成したり、SNSの運用やメディアの対応や、プロダクトで使う文章の策定なども行なっています。
大塚
文章の策定ですか?
片山
はい。言葉一つとっても、分かり易いものと分かり難いものがありますよね。パッと見てすぐに分かる、かつプロダクトのキャラクターに合った文章やサービス内の文言を策定しています。それにきちんと当てはまっているか、というチェックをしています。
現在はガイドラインの改正もしているのでユーザーストーリーを作ったり、カスタマージャーニーマップを作ったりなどもしています。より良い体験を提供したいという欲はいくらでも出るんですけど、 まずはマイナスの体験を無くすこと を目指して、カスタマージャーニーマップから「期待はずれの体験」をリスト化して改善の参考にしています。
あとは、参考として競合プロダクトの
・導線がどのようになっているのか
・プロダクト以外のサポートやヘルプページがすぐに見つかるか
・ちゃんと記事が出てくるか
・記事の内容がどのようになっているのか
などもよくチェックしています。
他にもプロダクト主催のイベントの運営やワークショップのお手伝い、ブログも書いていますね。
大塚
かなり幅広いですよね。
片山
そうですね。今は「Prott」がリニューアルを控えていまして、既存の改善内容とリニューアル内容の策定を並行しているので、かなり幅広いメンバーに協力をして頂きながらやっています。
カスタマーサクセスが担うべき役割とその考え方とは
大塚
カスタマーサクセスの業務がかなり多岐に渡っていらっしゃるのですが、元々そのような役割だったのか。それとも事業を進める中で「ここはカスタマーサクセスが担った方が良い」と感じて増えていった部分なのか。その辺はいかがでしょうか?
片山
個人的には本来、このくらいはカスタマーサクセスの範囲内だろうなとは思っています。どういうチーム編成にするか次第ですよね。
例えば、プロダクト広報のメンバーをカスタマーサクセスに入れるのかということもそうです。グッドパッチの場合は、今はそこまで潤沢なリソースがないので、自分たちが出来るところは出来るだけやろうという感じですね。
大塚
体勢で言うとカスタマーサクセスチームは何人でやっていらっしゃるんでしょうか?
片山
カスタマーサクセスチームは3人になります。
藤本
ちなみに、うちも3人ですね。カスタマージャーニーをカスタマーサクセスで作るのは、理解するうえでも良い取り組みだなと思います。特に御社ですとUXやUIのデザイン会社なので、そういった部分をやるのは良いですよね。
片山
ただ、私がUXやUIの業界に入ってきたのもグッドパッチが初めてなので、そこはクライアントサービス事業部のメンバーにも協力をしてもらっています。「こういうのをやりたいけど一緒にやってもらえませんか?」と知見のある人をいかに巻き込んでいくかという感じですね。
大塚
多岐に渡るからマーケティングの方やデザイナー、エンジニア。それぞれを巻き込んでいかないとできないですよね。
片山
いつも快く協力してくれるメンバーにはとても感謝しています。
藤本
巻き込み力は必要ですね。カスタマーサクセスは専門職ではあるんですけど、果たして「カスタマーサクセスじゃないとできない事は何か?」という時に、そこを明確に定義されていなかったりします。逆に言うと何でもできるチームでもありますよね。
大塚
そういう意味で言うとチームで活躍する人材。このスキルが高い、巻き込み力が高いなど、働いている方々の特徴はあるのでしょうか?
巻き込み力を持っていらっしゃるカスタマーサクセスチームの方は少ないという印象があるので、グッドパッチさんが凄いなと思いました。
片山
グッドパッチのメンバーに共通するところは人見知りをしない、ですかね(笑)。人見知りをするメンバーは誰もいないです。
大塚
メンバーの皆さんは、どのようなキャリアなのでしょうか?
片山
私と海外を担当しているメンバーは、全くの異業種でグッドパッチで初めてカスタマーサクセスをやっています。私も元々は投資用の不動産の営業をしていて、その後はSE案件の管理サポートを3年間続けた後にグッドパッチに入りました。
また、日本国内を対応しているメンバーは、ゲーム業界でカスタマーサクセスやQ&Aをやっていたり、フリーランスで活動していた時期もあるので、私よりも長くて色々と知っているメンバーですね。
個人的にはカスタマーサクセスのスキルというより、周りのチームやメンバーに助けてもらっているからこそ出来ていると思ってます。
1日の業務は流動的!?決まっていないからこそ臨機応変な対応が可能に!
大塚
どのような業務をされていますか?ある一日の流れなどあれば教えてください。
お話を聞いているとチームにいるだけではなくて、実はほとんどが他チームのところにいたりするのかなとイメージを持ちましたが、、、
片山
私はProttのプロダクトマネージャー(以下、PM)を兼務しているので、ミーティングが多くなったこともあり、私以外の二名がユーザーサポートに多くの時間を使ってくれています。
チームの席は、目の前がバックエンドエンジニア、左手前がCTO、後ろを振り返るとセールスのメンバー、斜めを向くとデザイナーがいる、という環境です。
席替えのときに他のチームからフロアの真ん中にカスタマーサクセスチームを配置してほしいという要望があったんです。物理的にチームの真ん中にいるので、必要がある時には都度椅子を回転させながら話しています。
藤本
距離が近いのは良いですね。ファシリテーション的に距離が近いと相談し易いですよね。一般的にはカスタマーサクセスチームは、周りとの距離が出てしまいがちになってしまいます。
大塚
確かにそうだな、と聞きながら自社のことを反省をしていました。弊社ではカスタマーサクセスは専用の島になっています。。。
藤本
効率的にしようとしたらチームだけになりますが、カスタマーサクセスの仕事の立ち位置をどのように捉えるかで、そこから変わってくるかなと思います。事業をスケールさせるために、何でもしなければいけない場合は、色々な人に話しかけないといけない。
片山
そうなんです。なので一日の流れとしてはわりと流動的でして、お問い合わせが多い日は、大半を問合せ対応で使うこともあります。
お問い合わせ対応と言ってもただ返答をしているだけではなくて、検証をしたりエンジニアさんと一緒に解決策を考えている時間も含めたお問い合わせ対応ですね。プロダクトのリリース直前だとブログを書いていたり、ブログに使う素材を作る時間も多かったりもします。
今はカスタマーサクセスチームのみ設けているミーティングは1つしかなくて、週に1回2時間ほど時間を取っています。その週でやったことや、私が他のミーティングで聞いてきたことをシェアしたり、気付いたことをカジュアルに話したり。
途中でお問い合わせ対応が入ることもあるので、少し長めミーティングをセットしています。話すことが無くなったら、そのまま一緒にその場で仕事をする、、、ということも。
そのため、1日の流れは正直あまり決まっていないですね。
他のチームと関わることで見える優先順位
藤本
今のチームの動きというのは、片山さん自身が「Prott」のPMとして、ご自身の中で意図的に変えていこうと思ったのか。必然的にそうなっていったのか、といった点はどうでしょうか?カスタマーサクセス担当としてスタートして、プロダクト全体を見るようになったというのは良いキャリア形成の仕方ではないかなと思うんです。
片山
今までの「Prott」のPMが優秀だったので、すごいなという目で見ていたんですよね。そのためPMに少し興味はあるけど、今はカスタマーサクセスの仕事をしっかりやろうとずっと考えていました。
今、「Prott」
ただ、私自身PMをやったことがなかったので、「不安なんです」と上司に伝えたところ、クライアントワーク事業でPMをやっているメンバーと協力してやれば得意なところに集中出来るのではないか?ということでアサインしてもらいました。その為、今は半々でやっていますね。
その方もクライアントワーク事業のPMと兼務しているので、常にプロダクトのことを考えられるわけではありませんが、お互いの特長を活かせるので良かったと思っています。
PMをやってみて思うのは、カスタマーサクセスの視点が凄く重要だと感じています。
大塚
それはどういったことですか?
片山
例えば、スプリントを1週間や2週間で回しましょう、といった時にPMがPMの業務しか経験のないメンバーだと、ユーザーの声が掴みにくいんですよね。というのも、「
でもカスタマーサクセスをやっていると、数値をきちんとまとめる時間がなくても優先順位が肌感覚で分かる。
今「Prott」ではユーザーデータが取れる体制もやっと整ってきたのですが、過去分のデータは無いので、他のメンバーからすると分からないですよね。
大塚
そうですね。
片山
そのため、ユーザーの声や困っていることが、開発のスケジュールになかなか入ってこないという事もありました。ですが、カスタマーサクセスがPMに足を突っ込むことによって、ユーザーの声を基に優先順位を付けやすくなったというのを感じます。
グッドパッチがカスタマーサクセスでKPIを定めていない理由
藤本
肌感覚で優先度が分かって、しかも自分に権限があるんだという状態ですね。先ほど、数字を取り始めたという事でしたが、カスタマーサクセスでどのような数字をKPIとして持っているのでしょうか?
片山
チームとしてはKPIを特に設定していません。目安としてNPSやレスポンスタイム(※返信までに要した時間)は見ていますが、それを評価に直結させていません。プロダクトチームの中のカスタマーサクセスという役割なので、やはりプロダクトとして追っている成果をカスタマーサクセスチームとしても追う形で目標設定をしています。
そのためセールスチームやマーケティングチーム、エンジニアやデザイナーも同じように、全員で売上を追っています。カスタマーサクセスだけのKPIというのは無いですね。
大塚
僕もセールス、マーケティング、カスタマーサクセスなど全部マネジメントしていて思いますが、セールスが躓いたらカスタマーサクセスチームも躓くことになると思います。その時の矛盾はどうされていますか?
片山
躓くというのは、失注や解約ということですよね。
大塚
例えば、そうです。
片山
そうですね。その時は一緒に悲しみます。
一同
笑
片山
あとは、今ちょうどやろうとしていますが、なぜ解約をしてしまったのか。なぜダウングレードをしてしまったのか。という理由を定量的に測れるように仕組みの見直しを行っています。解約も今後のナレッジに転換させていけるようなフローを目指しています。
今までは正直、悲しんでいただけですね(笑)
チャットサポートだからできる、コミュニケーションを増やした丁寧なヒアリング
藤本
解約理由のナレッジを貯める。カスタマーサクセスは基本的にチャーンレートを改善するというのが大前提に、穴の開いたバケツにしないのが役割だと思います。普段のコミュニケーションで、一般的なカスタマーサポートと言われる部分とカスタマーサクセスでの動き方について何か違いや取り組まれていることはありますか?
片山
ユーザーとのコミュニケーションで言いますと、「そもそもやりたいことはどういう事なのか?」という所をきちんと汲み取ってあげる。または、ヒアリングの中で聞き取ってあげる。これは凄く大切にしていまして、チャットだからできることだと思うんですよね。
メールだと時間も割かれますし、何回もやり取りが大変ですよね。
大塚
そうですね。
片山
チャットだからできることなので、しっかりヒアリングをしています。そうすれば開発側としては聞かれていることに対してのアタリが付いてくると思うんです。
藤本
メールだと回数を増やさないように一回でA~E位までのパターンを全て載せてしまいます。チャットならではという所で、やり取りの回数を意識的に増やして徐々にヒアリングをしていくという感じですかね。
片山
メールのサポートも窓口としては設けていますので、メールの時は長めに作成することもありますね。
大塚
チャットとメールでのお問合せ比率は半々くらいでしょうか?
片山
チャットサポートに慣れていない方はメールでお問い合わせを頂きますが、割合的にはチャットの方がやはり多いですね。
藤本
一度チャットでお問い合わせを頂くと、次からチャットになりますよね。
まとめ
幅広い業務領域は、多岐に渡るからこそ周りのチームも巻き込んで支え合っているという片山氏。他チームから「カスタマーサクセスチームの席をフロアの真ん中に配置してほしい」という要望からもカスタマーサクセスチームと周りのチームとの距離感の近さを伺うことができました。
カスタマーサクセスとPMを兼務しているからこそ、ユーザーの声を基に優先順位を付けることができる。
グッドパッチのカスタマーサクセスがKPIを定めていない理由も、プロダクトチーム全体の距離感の近さがあるからこそ、目標を全体で追うことができるのではないかなと感じました。
後半の記事では、カスタマーサクセスやチームの生産性を向上させるシステムやグッドパッチにおけるカスタマーサクセスの存在意義、即戦力よりも求めている人物像や今後のカスタマーサクセスチームでの挑戦などをお話して頂きますので、続けてご覧ください。
■大塚 真吾
プロサッカークラブのマネジメント職を経験後、ダイレクトマーケティング支援の株式会社ファインドスターに入社。
サブスクリプション型の通販のマーケティングを100社以上支援。2013年、スタークス株式会社に入社し、2016年取締役に就任。
現在、クラウド型の物流プラットフォーム「クラウドロジ」とLINE@に特化したCSツール「CScloud」を提供。マーケティング・セールス・カスタマーサクセスを統括。
■藤本 大輔
1982年 福岡生まれ。テレマーケティング会社で電話営業を経験の後、コンタクトセンター運営会社に移り約10年間大手インターネットサービスプロバイダのコールセンターマネジメントに従事。その後、大手ソーシャルゲーム会社のCSを経て、フリマアプリ運営会社のCSグループマネージャーとしてチャットサポートの導入やCSイベントの開催を主導。現在はコードキャンプ株式会社のCSチームを率いる。本業の他に日本で唯一の「カスタマーサポート エバンジェリスト」として、コンサルタントやCSイベントの企画などで活動中。キャッチコピーは“CSに狂っている男”。