こんにちは、CSlabの大塚です。今回は、CS実践者インタビューということで、日本でただ一人「カスタマーサポート エバンジェリスト」として活動している藤本大輔さん(現在はコードキャンプ株式会社でCSを担当しながらカラクリ株式会社のCS顧問を務める)と共に、株式会社エウレカのCustomer Careを担当されている執行役員 安信さんにお話を伺ってきました。
エウレカさんは、国内最大級の恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」を開発・運営しています。その「Paris」CS部門の責任者として、さらには2018年4月からは執行役員に就任され、自社のCS部門を牽引するだけではなくCS業界をも牽引していく存在である安信さん。
今回のインタビューでは、アウトソースしていたCSを完全インハウス化し、24時間365日オペレーター常駐体制にした背景。ご自身が執行役員となったことで描くCS業界の未来。そして、オペレーターを評価する際の明確なフィードバックのお話。他にも、カスタマーサポートエバンジェリストの藤本さんでさえも「初めて聞いた」と言われる評価制度などをお聞きしました。
株式会社エウレカ 執行役員Customer Care Director 安信竜馬
大学卒業後、テレマーケティングエージェンシーでCSキャリアを開始。2005年以降、プリペイド型電子マネー事業会社、BtoB系オンラインマーケットプレイス事業会社、グローバル製薬企業などで、CS部門の立ち上げ・アウトソース化・インハウス化を多数経験する。2016年2月、株式会社エウレカに入社。国内オンラインデーティング業界初となる、24時間365日オペレーター常駐体制でのカスタマーケアの完全インハウス化を行う。2018年4月、執行役員Customer Care Director就任。
CS部門責任者のキャリア形成の考え方
大塚
今日はよろしくお願いします!
まずは安信さんが、エウレカさんにジョインされた背景や理由からお聞かせ頂けますか?
安信
これまでは主に製薬やECなど、人が生活をする上で欠かせない商品やサービスのCSをメインにキャリアを積んできました。そんな中改めて自身のキャリアを考える機会があり、人の幸せや人生そのものを豊かにするサービスのCSにかかわりたいと思ったのです。
そのタイミングでPairsのCS求人を見つけ、応募しました。実はそれまで僕はPairsはおろかオンラインデーティングというサービスさえも知りませんでした。
藤本
もともと戦略的にキャリアを考えられているんですか?
安信
僕は比較的そうですね。自己成長の面でも、特にグローバル企業だからこそ得る事ができる知識や経験があるので、その点ではエウレカがMatch Groupの一員であることも魅力の1つでした。
CFMとは友達のような存在であること
大塚
実際にエウレカさんに入られて、今までの会社と比べてCSの違いや特徴はありますか?
安信
Pairsは恋愛を扱うサービスだということ。そしてCtoCのサービスなので、今までの経験が全て横に展開出来るかというとそんなことはありません。なので、自分自身の新たなチャレンジがあったり、新しい成長があったりという所は楽しいと捉えているんだと思います。
藤本
恋愛は答えがないですよね。ECであれば発送が出来て「受け取りました」となれば、どんなにクレームがあっても「じゃあ良ければ使ってください」となりますからね。
安信
そうなんです。恋愛という点が凄く面白いんですよね。
マッチングをしてメッセージのやりとりをして、実際に会っていただいて。そして、最終的に僕たちカスタマーケアが目指すのは、Pairsを通じて幸せになってもらうこと。そして、その幸せの形は人それぞれ違うものだとも考えています。
大塚
エウレカさんのCSには、CFMという概念があるとお伺いしました。
具体的にどのような考え方で、どのような業務をされていますか?
安信
もともとCFM(Customer Friendship Management)という考え方は、ZOZOTOWNさんによるものです。
「CFMってどういうものなのだろう?」と考えていた時に、ZOZOTOWNのCS責任者の方とお会いする機会があり、直接お伺いしたその内容が自分の中で腹落ちしました。
服はどこでも買えるので、ZOZOTOWNである絶対的な必要ってないじゃないですか。そこで、その差別化を考えた時に、顧客と友達のような関係になることによってZOZOTOWNでもう一度買い物をしようと思っていただく。そこがCSに求められているミッションなんですよ。
それをPairsに当てはめて考えると、Pairsは恋愛を扱うサービスなので、ユーザーの気持ちに寄り添って話を聞く友達のような存在であるべきなんです。
というのも、恋愛相談をする相手って親でも上司でもなくて絶対に友達なんですよね。
だからこそ“CFM”の考え方で、CSをインハウス化し、かつ24時間365日オペレーター常駐体制で対応することにしました。友達からLINEやメールが来た時って、すぐに返信しますよね。カスタマーケアのレスポンスタイムを短縮したかった理由はそこにあります。
例えば、問合わせをいただいて「9時間後に対応します」「24時間以内に返信します」というケースを見かけることがありますが、もし相手が友達だったらそうはならないですよね。メッセージが来たらすぐに返信する。
大塚
そう考えると判断基準も分かり易いですね。その友達のような存在であるべきという在り方を体現する具体的な施策としては、どういったものがありますか?
安信
24時間365日オペレーター常駐での完全インハウス体制に移行することで、レスポンスタイムの短縮を図るものです。
また、お問い合わせの内容によっては、すぐに実践できそうな恋愛アドバイス要素やお相手が見つかった方々からの声なども含めて返信する工夫もしています。
一般的なFAQはサービスの仕様に関するものだと思うのですが、Pairsでは、自己紹介文のココを変えたことで「いいね!」が貰えるようになった。マッチングするようになった。といった、幸せになった方々からの声にもとづくアドバイスもお伝えしていますね。
※24時間365日カスタマーケアの完全インハウス化の効果
藤本
そう考えると、カスタマーサクセス(お客様を成功に導く)の要素なのかもしれませんね。
大塚
本当にそうですね!友達のような存在というのは凄くしっくりきました。
CSチームの従業員満足度に力を入れる理由
安信
恋愛サポーターになる、というのがPairsカスタマーケアの最終ゴールです。しかし、恋愛のサポートをするサービスという点では、オペレーター自身が占い師であったり、カウンセラーの資格などを持っているわけではないので、Pairsならではの知見や裏付けとなるデータを踏まえた上でのコミュニケーションを模索しているところです。
大塚
チーム全体をマネジメントしていく際に、上手くいっているかどうか指標が見られるわけでもないので、判断が難しかったりもすると思います。そういった意味で言うと、何かチーム全体で定点観測をしながら活動をされているのでしょうか?
安信
大前提として、CSはチームマネジメントが重要ですよね。ユーザーの満足、つまりCSAT(顧客満足度)が上がるかどうかはES(従業員満足度)次第だと考えており、そのESにも力を入れています。
大塚
おっしゃる通り、マニュアル通りにCS業務をやれば良いわけではないので、ESが大切ですね。働くスタッフがイキイキしていないと、サポーターにはなれないですもんね。
安信
そうですね。完全インハウス化に伴ってチーム全体の人数も増えたということもあり、特に、オペレーターの満足度が大切だと思っています。それが時給かもしれないし、働く環境かもしれないし。コミュニケーション面も含めて、自分たちにとって最適なチームのあり方を常に模索していきたいですね。
CSを内省化して24時間体制に踏み切った背景
※カスタマーケアが担う役割
藤本
内省化(インハウス化)の話だけで言えば、結構前からずっと考えて準備をしていましたよね。
安信
内省化は段階的に取り組んできました。私がエウレカに入社した2年前の時点では、全てアウトソースで運営をしていました。
なので、当初アウトソースのマネジメントをすることがCS業務のメインでしたが、そこからまずは10時~22時の時間帯でのインハウス対応をスタートしました。
実際に運営しながら分析を進めていくと、お問い合わせは22時以降に増える傾向にあることがわかってきました。そこで24時間対応に踏み切るのですが、問い合わせ対応だけではなく、投稿監視とモニタリングも含めてすべて24時間365日オペレーター常駐体制でインハウス化しました。
大塚
すごい。かなりの大改革ですね。
藤本
投稿監視はシステマチックにやるところが多いから、そこを内製化するというのもあまりないかなという感じはします。
大塚
投稿監視は一つ一つ見るのでしょうか?
安信
18歳未満でのオンラインデーティングサービスの利用は法律上禁止されています。年齢確認は最重要条件の一つなので、目視で行っています。
他の部分については、AIと呼ばれる機械学習でチェックし、アラートが出たものについて人が目視でチェックするようにしています。
藤本
どんなにCSチームが大きくなっても投稿監視の部分は、外に切り出して(=外注)というパターンが多いと思うので凄いですね。
安信
弊社がその点に踏み切った理由が、まさに安心・安全なサービス利用環境の整備につながっています。やっぱりユーザーに安心・安全に使っていただかないと純粋な恋人探しに集中することは難しいですよね。
特に排除したいのが、業者や目的外利用者。たった一度でもそれらの人々と接点ができてしまうと、そのユーザーにとって「Pairsは信頼できないサービス」となってしまうので、その安心・安全を守るためにも外注ではなく、社内で対応するという判断をしました。
藤本
結構社内でも調整をしたのではないですか?
安信
調整には時間がかかりましたが、安心・安全のために必要だと判断したことなので、迷いはなかったですね。
顧客接点には、必ずCSを同行させる狙いとは
大塚
今後やっていきたい取り組みなどはありますか。
安信
「CSの仕事って凄いんだよ」という職種としてのブランディングにも繋がるので、オペレーター同士の交流を他社さんと実施してみたいと考えています。
他には、ユーザーとの接点を積極的に持つようにしています。
例えば、Pairsを通して幸せになったカップルを広告キャンペーンでモデル起用させていただいていますが、その撮影にはCSの担当者も参加しています。自分たちのサポートがどういった結果になっているのかを見てもらうためです。
また、ユーザーへのインタビューも社内でしますが、プロダクト担当だけではなくてCSにも入ってもらうこともしています。
藤本
「彼氏が出来ました」とか「彼女が出来ました」といった実際のユーザーと触れ合うというのは良いですよね。
安信
オペレーターにとっても嬉しいことで、モチベーションアップにつながるんですよね。
藤本
モチベーションが高い所はユーザーコメントを共有しています。CSって普段褒められないんですよ。
大塚
確かにご指摘を頂くことの方が気は落ちますよね。
藤本
CSはちゃんと出来ていて当たり前という状態だったりもします。
大塚
そういう意味で、お客様の感謝の声が社内に貼られていたりするのでしょうか。ECの会社で見たことがあります。
安信
WorkplaceというFacebook社が提供している社内コミュニケーションツール内で、定期的にお知らせをしています。
大塚
先ほどのプロダクトや撮影はマーケティング領域だと思いますが、他部署との連携も積極的に行っているのでしょうか?
安信
そうですね。ユーザーとのタッチポイントにはCSも必ず加わるようにしています。それは私が入社してから徹底している部分でもあります。
なぜかというと、例えば、広告出演に関するユーザーさんのリクルーティングにおいて、個人情報の取り扱い上はCSであり、万が一何かトラブルがその場で起きることも考えられる。そういった場合に、エンジニアやデザイナーはプロダクトの専門ですが、ユーザー対応がその場でできるかというとかなり難しいですよね。
そういった失礼が無いようにという点も含めて、基本的にはCSもプロジェクトの座組にすべて入ります。
大塚
それはユーザーのインタビューもそうですが、他にもユーザータッチポイントはありますか?
安信
ユーザーキャンペーンもそうですし、少し前に88組186名のPairsで幸せになったカップルとそのご家族方を集めてCM動画を作りました。その時にも、ユーザーのサポートのためにCSのメンバーは現場行きますね。
藤本
少し話が逸れますが、動画撮影にその人数のお客様が参加してくれるいうことも凄いですね。
安信
お声がけをしたところ、快く引き受けてくださる方々がたくさんいたんですよ。
大塚
それは嬉しいですね。
安信
嬉しいです。本当に涙がでます。
CSから執行役員になるということ〜CS業界の未来とロールモデル〜
大塚
社内でCSに期待されている役割や経営との関わりはいかがでしょうか?
安信
会社がきちんとCSを重要だと捉えてくれていて、テクノロジーや人材にも投資することを意思決定しているのでとてもありがたいです。
また経営との関わりで言うと、2018年4月から執行役員になりました。執行役員になるというのはCS業界にとっても意味のあることで可能性の広がりを感じています。以前、メルカリの山田さんが執行役員になった時に感じたことです。
藤本
それはそうですね。安信さんもそうですけど僕もそうですし、新卒からずっとCS職でやってきて、結果として執行役員になると、CSに関わる方にとっても「そういう道もあるんだな」というロールモデルが見える。
大塚
勇気を与えますよね。
藤本
CS HACKやコミュニティをやっていくキッカケもCSって素晴らしいのに、あまりにも素晴らしいと思われていないからでした。
世間が思っていないのはまだしも、CSをやっている本人も素晴らしいと思っているの?と感じる部分もありました。少しでもCSの良さを広めていきたいし、伝えたいと思って。
大塚
確かに藤本さんもCS HACKだけではなく、色々な領域で活動されていますよね。
藤本
特にCSは色々な面を見ることができますし、プロダクトの情報を集めることもできます。自分で道を開いていくことができます。
大塚
今回、執行役員に就任をされてご自身の中で、意識や「こうしていきたい」など変わった部分はありますか?
安信
大きく変わったのは、どちらかというと自分の気持ちや取り組み方を変えなければいけないということですね。
やっていることは当然変わらないのですが、経営目線で考えることが今後より組織成長に大きく反映される部分であると考えているところです。
まとめ
Pairsでは利用して頂いている方への安心・安全のためにCSをインハウス化し、24時間365日オペレーター常駐体制で対応しているとのことでした。その理由もユーザーの気持ちに寄り添って話を聞く友達のような存在であるため。そのため、レスポンスタイムの短縮のみではなく、お問い合わせによってはアドバイスをしたり、参考をお伝えしたりなどユーザーに寄り添うCSであるという印象でした。
CSATが上がるかどうかもES次第という言葉もありましたが、従業員の満足度が最終的にはユーザーの満足度にもつながり、その結果として全体の好循環を生んでいるとも感じました。
後編の記事では、安信氏が考えるCSを起点としたキャリアの築き方の実現についてや、エウレカが求める人物像。評価のための基準や他ではあまり見かけない評価への取り組み。エウレカが安心・安全に力を入れている理由などをお話しして頂きました。続けて後編の記事もご覧ください。
■大塚 真吾
プロサッカークラブのマネジメント職を経験後、ダイレクトマーケティング支援の株式会社ファインドスターに入社。サブスクリプション型の通販のマーケティングを100社以上支援。2013年、スタークス株式会社に入社し、2016年取締役に就任。現在、クラウド型の物流プラットフォーム「クラウドロジ」とLINE@に特化したCSツール「CScloud」を提供。
■藤本 大輔
1982年 福岡生まれ。テレマーケティング会社で電話営業を経験の後、コンタクトセンター運営会社に移り約10年間大手インターネットサービスプロバイダのコールセンターマネジメントに従事。その後、大手ソーシャルゲーム会社のCSを経て、フリマアプリ運営会社のCSグループマネージャーとしてチャットサポートの導入やCSイベントの開催を主導。現在はコードキャンプ株式会社のCSチームを率いる。本業の他に日本で唯一の「カスタマーサポート エバンジェリスト」として、コンサルタントやCSイベントの企画などで活動中。キャッチコピーは“CSに狂っている男”。