写真:宇賀神氏(左)と長谷田氏(右)
こんにちは、CSジャーナル編集長の大塚です。
今回は、CS実践者インタビューということで、日本でただ一人「カスタマーサポート エバンジェリスト」として活動している藤本大輔さん(現在はコードキャンプ株式会社でCSを担当しながらカラクリ株式会社のCS顧問を務める)と共に、株式会社バンク(https://bank.co.jp/)のオペーレーションマネージャーの長谷田さんと、CS顧問の宇賀神さんにお話を伺ってきました。
バンクさんは、即時買取サービスのアプリ「CASH(https://cash.jp/)」を運用している会社です。「持っているものがすぐに現金化される」というユーザー体験を提供するために、日々CS業務が行われています。ですが、バンクさんにはCSの専任部署が無いのです!
なぜCS専任部署がないのか?バンクの目指すCSのゴールとは何なのか?今後主流になるかもしれないCSの新しいキャリアプランとは?
20代前半のスタッフが活躍するオペレーションチームのマネージャー長谷田さんと、CSの外部顧問である宇賀神さんの話から、紐解いていきたいと思います。
株式会社バンク
オペレーションチームマネージャー 長谷田 貴史
2008年に個人事業主としてキャリアをスタート。ECの運営や会社経営の経験をもとに、前職では自社SaasサービスのCS Leadとしてカスタマーサクセスチームの組成に携わる。
2017年12月に株式会社バンクへ入社し、現在は12名からなるオペレーションチームのマネージャーを務める。
株式会社バンク
CS顧問 宇賀神 卓馬
大学中退後、ギタリストとして二度のメジャーデビューを経験。サマーソニック2008、HEY! HEY! HEY! MUSIC CHAMPに出演するなど活躍。2012年にGMOペパボ株式会社CSグループに加入。カラーミーショップの電話サポートを立ち上げ、同部署のマネージャーに就任。2018年4月より、株式会社バンクのCS顧問に就任する。
これからのCS職のキャリアプラン
藤本
長谷田さんがバンクさんに入られた経緯を教えてもらえますか。
長谷田
元々、個人事業主でECをやっていました。そこでお客様への対応、サービスサイトの改善をやっていたのが僕のキャリアのスタートです。そこから、「もっと大人数で一つのサービスを作りたい」という思いがあり、グッドパッチというUIデザイン会社に入りました。そこで自社プロダクトのCS担当者がいなかったので、CS経験のある自分が担当することになりました。
その後、グッドパッチ出身のバンクのマネージャーから、どんなCSツールを導入すれば良いか?といったような相談を受けるうちに、タイミングが重なってバンクに入社することになりました。一つの会社で複数の面白いプロダクトを作って運用できる、ということで入社を決めました。
大塚
では、宇賀神さんがCS顧問になられたのは、どんな経緯があったのですか?
宇賀神
身近に個人事業主として企業とCSの顧問契約を結んでいる方がいて、「こういう働き方も良いな~」と思うようになったのが、今の働き方を始めたきっかけです。社内でマネージャーなどのポジションが与えられるとCS業務の他にもやならいといけないことも増えますし…。それで自分も他社のCSに顧問として関わる、CSスペシャリストのキャリアを選びました。
また、若手の子がCSチームに入った時に、その座をどかなそうなマネージャーが上にいるとキャリアパスが描きづらいじゃないですか。以前からその問題は解決したいと思っていたので、後進のためにマネージャーというポジションをあけて、自分は「CSに特化した人間としてこういうキャリアも描けるよ」というのを示したいなと思ってます。
大塚
CSのキャリア問題の解決策として良い形ですね!
長谷田
宇賀神さんのような働き方自体がこれからは普通になってくるかもしれないですね。
宇賀神
エンジニアでもそうなってますよね。
藤本
そうですね。雇用形態は気にせず、会社としても有能であれば「来てくれるだけでありがたい!」といった風潮はありますよね。
そういう点で、今後はプロCSなんかも出てくるかもしれませんね。CSは忙しさに波があって、トラブルが起こった時に一時的に人手が足りなくなることがあります。そういった時にプロに頼れるような仕組みがあれば良いかもしれません。
CSは役割の一部。何でもできるオペレーションチーム
大塚
では、次にバンクさんのCSについて伺いたいと思います。CSといっても企業さんによってやっていることが大きく異なる印象なのですが、バンクさんではどういった業務を担っていますか?
長谷田
まず、ウチはCSの専任部署はないんです。
オペレーションチームといって、「CASH」のサービス運営及び改善の全てをやっています。その中の一つとしてCS業務である問い合わせ対応などが入っています。なので、CS業務の他にもサービスの機能改善プロジェクトや、品質管理のテストもやっています。幅広く何でもやっている感じです。
藤本
テスト手順もオペレーションチームで考えてやっているんですか?
長谷田
そうですね。新しい機能が出た時は開発したエンジニアと一緒にテストをやります。
他には、不正利用の対策、販売・振込対応、配送会社との連携ですね。あとはユーザーが荷物を送る際の目視のチェックも行います。不正利用対策の一環です。ユーザーが増えると基本的に業務が増えていくので、そこをいかに自動化して少人数で行うかが課題になって来ます。
大塚
本当に幅広いですね。
ちなみに、マーケティング的なところは入ってこないのでしょうか?
長谷田
そうですね、マーケティングは別のチームが担っています。ただ、特定の利用状況の人に対して個別のやり取りをしようという動きはあります。
大塚
そんな幅広い業務を担っているオペレーションチームにおいて、いわゆるCSの業務はどんなことをやっているのですか?
長谷田
お客様応対、不正利用対策、問い合わせ対応が主ですね。オペレーションチームのメンバーは全員で11人、CS顧問の宇賀神さんを入れて12人体制です。ただ、先ほど申し上げたようにCS専任のメンバーはいません。
大塚
なるほど。ありがとうございます。ちなみに、即時買取サービスというCASHならではの顧客応対ってあったりしますか?
長谷田
CASHは「持っているものがすぐにキャッシュにできる」というユーザー体験が求められています。
そういったサービスの性質上、査定から支払いまでのプロセスで滞りがあれば問い合わせが来ます。例えば、口座情報の間違えで振り込まれていなかった時に「振り込まれてないです」といった問い合わせがあります。「振込に失敗しました」という通知を送るのですが、それを見る前に問い合わせされる方もいますので、その際にはお振込みができない理由と、次の手続きについて説明します。
また銀行の営業時間もありますので、その日の内にユーザーがお金を手にすることができるように、早めの対応を行っています。
宇賀神
先払いは不正利用の面ではシリアスなところがありますけどね。
藤本
不正利用についてビックリしたのが、CS HACKに登壇して頂いた際に「CASH」の「性善説と不正ユーザー」をテーマにお話をして頂いたのですが、CASHのユーザーさんはきちんと取引をしてくれる人が多くて、不正利用をする人がほとんどいないことです。
長谷田
そうですね。ほとんどの人はちゃんと使ってくれています。
藤本
ただ、これからさらにサービス拡大した時には、ユーザーの属性も多様になってくるので、不正利用対策はより重要になるかもしれないですね。
シンプルなサービスを作り、問い合わせ数を減らす
藤本
今後サービスを利用する人が増えていくと、その分問い合わせも多くなってくるので、対応する人材もより必要になってくると思うのですが、そうなるとCSもたくさん抱えていく必要があるかもしれませんね。
長谷田
そうですね。ただ、サービス自体はシンプルに、ユーザーが迷わないように作っているので問い合わせ率はそこまで変わらないかなと思います。
宇賀神
CS顧問に入ってみて思うのが「(問い合わせが)こんなに少ないんだ」ということです。
長谷田
そうですね。利用されているユーザーの数に比べるとだいぶ少ないかなと思います。
大塚
宇賀神さんが見てるのはどの領域までになるんですか?
宇賀神
まだ顧問になって日も浅いのでこれから本格化していくのですが、問い合わせの内容はチェックしてますね。あと、対応する担当者のキャラクターを把握するようにしています。
大塚
なるほど。では長谷田さんにお聞きします。
宇賀神さんに期待していた役割はどんなものだったのですか?なぜ、CS顧問になっていただいたのですか?
長谷田
CS専任の人がいない、というところがあります。先程お話したようにオペレーションチームは多様な業務を担っているため、前職が様々な人が集まっています。なので、CS経験という点では、僕ともう一人のメンバーしかありませんでした。そこで、サービスの向上にはCSのことを相談できる人が不可欠だと思い、宇賀神さんに申し出ました。
藤本
宇賀神さんは、バンクさんのどういったところに惹かれたのでしょうか?
宇賀神
代表の光本さんのことは前から知っていて、生み出すプロダクトのセンスを感じていたからですかね。光本さんがリリースしているSTORES.jpも見事なサービスで(笑)。
あとは、元々DMMグループに魅力を感じていたのも理由にあります。買収のスピード感や企業文化が「いいなぁ」と。
藤本
では、実際に来てみて、これからやっていきたいことは何ですか?
宇賀神
さっき長谷田さんも言ってましたが、CS経験豊富な人材を育てること。若手が多いんです。だから、割と基礎的なところを指導しています。まずは効率化を目指していきます。
目指すは「問い合わせが来ない」状態にすること
大塚
バンクさんのCSはどういったことを目指しているのですか?
宇賀神
問い合わせが来ない状態を目指すべきだと思います。サービス自体がシンプルなので、すでに問い合わせの発生率は低いのですが、問い合わせずにスムーズな体験をしていただくことが、オペレーションチームの目指すところだと思います。
大塚
ゴールとしては、お客様に一切の負担をかけないところを目指しておられるということですけど、現時点で達成度は何点くらいでしょうか?
長谷田
点数をつけるのは、まだ難しいですね。
大塚
それはどういったところで感じられるのですか?
長谷田
問い合わせがまだありますし、ユーザーに規約が伝わりきっていない部分など、そこはゼロにしないといけないと感じています。
藤本
会社としてはCSの重要性はどれくらいなのでしょうか?
長谷田
社内では問い合わせ対応のみではなく、運用そのものの話をすることが多いです。
運用改善の一環として、ユーザーからの問い合わせから感じたことや見えてきたことを社内に共有しています。
藤本
問い合わせの内容というより「なぜその問い合わせが発生するのか?」といった話がされている感じなんですね。サービス自体がシンプルさを追求していて、どんな人でも迷わず使えるところを目指していることがわかりますね。
大塚
問い合わせが無くなるところがゴールということは、一般的なCSのKPIとは異なる指標を見ておられたりするのでしょうか?
長谷田
今のフェーズでは、初回の返答の早さであるファースト・レスポンスタイムは見ています。一定のクオリティを担保した上で早さを重視しています。
チャットボットによる自動返信
宇賀神
サービスの性質上、問い合わせ内容も短文で、2~3行くらいのものが多いんです。そうなるとあまりクオリティも上げようとして、1件に数十分かけるより、スピードが重要ですね。
長谷田
問い合わせ対応の時間を減らして、その分問い合わせが発生しないような改善に時間を使う方が大切かなと思います。
チームメンバーの一人ひとりが主役
大塚
CSについては経営陣を含めて話されますか?もしくは、オペレーションチーム内で話されるのでしょうか?
長谷田
全体のビジネスミーティングにはオペレーションチームのメンバー全員が参加します。オペレーションチームはいろんなことに関わるので、決断の流れも含めてオープンにした方が効率がいいんです。
大塚
なるほど、個々にきっちりと役割が分かれているということではないですもんね。
長谷田
そうですね。個々にプロジェクトを担当している面もあるのですが、「この人はこの役割」といった感じではなく、やるべきことをみんなで分担してやっている感じです。
藤本
みんなが色々できる方が良いですよね。
長谷田
今後、CASH以外にも「少額資金ニーズ」に基づいた新規事業もリリースされる予定なので、より役割を分ける必要もなくなるかなと思います。何をやるかはまだ秘密です(笑)
藤本
サービスを複数やるとなると人数が必要になってくると思うのですが、採用においての戦略などはあったりするのでしょうか?
長谷田
サービスに合わせてCSの必要な人数ややり方があるので、場合によっては社外にお願いするかもしれませんし、採用するとすればベテランを増やすかもしれません。ただ、基本少人数で運用したいですね。
宇賀神さん、もし採用するとしたらベテランですよね?
宇賀神
そうですね。今のチームは若手が多いので、サービスの改善含めて彼らが育つほど会社にとってはプラスになります。「お前が伸びた分だけチームが強くなる!」桜木花道枠ですね(笑)
長谷田
チームの成長とともにサービスも成長し、質も向上すると思います。
横の連携がCSを強くする
大塚
サービスの質の向上には、他のチームとの連携も大切だと思うのですが、その点で工夫されていることはありますか?
長谷田
オペレーションチームの固定のメンバーだけが他のチームとやり取りするのではなく、チームのメンバーそれぞれがやりとりするようにしています。
藤本
中央集権みたいにはしないということですね。
長谷田
そうですね。みんなでやっている意味がなくなってしまうので。
藤本
今後のCSは、部署はもちろん、会社すらも飛び越えてやっていかないといけないと思います。
長谷田
そうですね、CSに限らず全てにおいてそう感じます。実際にウチでもエンジニアチームやビジネスチームと連携しますし、CSもお客様対応だけでなく、チーム内でもやり取りするのが普通です。
藤本
メーカーやコールセンターは独立しがちですよね。宇賀神さんのように長年蓄積したノウハウを会社を超えて伝えていくことで、新規のサービスは質が良くなるので、ユーザーからすると良いことしかないと思います。会社を超えた交流は増えていけば良いなと思います。
長谷田
そうですね、情報交換で知見を深めていきたいです。
少数精鋭で人と会社が成長していく
(CSエバンジェリスト藤本さんも含めた3ショット)
大塚
今後お二人が、それぞれやっていきたいことは何ですか?
宇賀神
ここからは、オペレーションチームの人数を増やさずに一人ひとりの力を伸ばして、サービス数が増えても対応できるくらいまで力が付くようになると面白いかなと思います。それだけシンプルなサービスができているということですので、スタートアップとしてはすごくカッコイイ姿だと思います。
長谷田
僕はCASH以外のサービスも成功して、バンクが成功している姿を目指したいです。それも少数精鋭でやっていきたいです。例えばですが、他の会社が200人でやっていることが20人でできたら良いなと思います。
社内全体でもそういう意識があって、エンジニアがオペレーションチームの業務を体験して、そこで見えてきた課題を持って帰って改善するといったことをやっています。そういった工夫で人数を増やさなくても対応できる体制を整えています。
藤本
問題を解決するために機能を増やすのではなく、スマートさを突き詰めている感じですかね。
ちなみにCS業界について、どうなって欲しい、どうしていきたいといったことはありますか?
宇賀神
僕はCS以外のことをやらないと決めています。だからCSしかできない人間がどれだけ価値を生めるのかというところに集中していきたいです。現状CSしかできないことはマイナスな印象だと思います。若い人だと「この先何ができるのか」「お金はどれくらい稼げるのか」といった不安がついてきます。なので、そこに光を当てていきたいですね。
藤本
宇賀神さんは前々からCSのキャリア設計に言及されていますよね。エンジニアでも、給料が上がるためにはマネジメントに回って、プログラムを書くことが減っていきます。だったらフリーランスのような形で、高時給でもスキルが高いから起用したいと思われる存在を目指す、といった感じですかね?
宇賀神
そうですね、そういった形のキャリアを作っていきたいです。
大塚
まさにCSのプロフェッショナル!どの企業でも通じる人材ですね。
まとめ
今回バンクさんのCS業務を担当されている長谷田さんの話を聞くことで、新しいCSの形やキャリアが見えてきました。
CSのクオリティというと、問い合わせに対する丁寧な対応というところに目がいきがちです。ですが、バンクさんのCSは問い合わせに対してどのように返答するかよりも、そもそも問い合わせが無くなるようなシンプルでわかりやすいサービスを作るところを目指しているとのことでした。
また、ただCSのための人数を増やすだけでなく、一人ひとりの能力が高い少数精鋭のチームを目指していることがわかりました。そのためには社内での他のチームとの連携や、社外の有識者の存在が重要であることが見えてきました。若手の多いチームということですので、型にとらわれないCSが実現するのではないかという期待感が高まります。
最後になりましたが、CSの外部顧問という宇賀神さんの働き方は「CSができるだけではキャリアパスに限界がある」という現状に対して、「CSだけを極めても高い報酬を得ることは可能である」という希望を抱かせてくれます。今後CS業界ではこういった働き方が主流になってくるかもしれません。CSに光が当たり、魅力的なキャリアとなることを期待しています。
■大塚 真吾
プロサッカークラブのマネジメント職を経験後、ダイレクトマーケティング支援の株式会社ファインドスターに入社。サブスクリプション型の通販のマーケティングを100社以上支援。2013年、スタークス株式会社に入社し、2016年取締役に就任。現在、クラウド型の物流プラットフォーム「クラウドロジ」とLINE@に特化したCSツール「CScloud」を提供。
■藤本 大輔
1982年 福岡生まれ。テレマーケティング会社で電話営業を経験の後、コンタクトセンター運営会社に移り約10年間大手インターネットサービスプロバイダのコールセンターマネジメントに従事。その後、大手ソーシャルゲーム会社のCSを経て、フリマアプリ運営会社のCSグループマネージャーとしてチャットサポートの導入やCSイベントの開催を主導。現在はコードキャンプ株式会社のCSチームを率いる。本業の他に日本で唯一の「カスタマーサポート エバンジェリスト」として、コンサルタントやCSイベントの企画などで活動中。キャッチコピーは“CSに狂っている男”。