今回のインタビューは「“理想の姿”を叶える」という理念をもとに、様々なD2Cブランドを展開する株式会社HRCの皆様とCS部門のコンサルティングをされている株式会社CoachStepの西野様にインタビューをさせていただきました。
今回のインタビューでは、LINEで問い合わせ対応を自動化することにより、年間6,000万円という圧倒的なコスト削減を成功するまでの道のりについて伺ってきました。お客様とのコミュニケーションを大事にしているブランドだからこそ生まれるLINEで自動化する際の不安やそれを乗り越える道のりが参考になると思います。
ブランドを複数展開されていると思いますが、それぞれのブランドや商品の特徴について教えて頂けますか?
HRCは「変わっていく。今の自分が好きになる」「いつまでも、あなたとのつながりを大切に」というブランドメッセージを掲げ、女性のちょっとした不安を、自分を変えていく原動力にして全ての女性に生き生きと輝いていてほしいと願っています。そんな想いから、HRCでは3つのナイトブラブランドとインティメイトケア※ブランドの合計4ブランドを展開しています。
ナイトブラのブランドは、「いくつになっても美しい姿でいられるように」という思いから生まれた『VIAGEシリーズ』、AAAカップ~Cカップの小胸さんの為に『ωライン』を整える特許取得の特別設計が施されている『LUNAシリーズ』、家ではブラが窮屈だから外したい、でも胸が垂れるのは嫌。そんな声に応えるために生まれたブランド『Nmerry』の3ブランドを展開しています。
インティメイトケアブランドのlaugh.は日本の女性にインティメイトケア※のグローバルスタンダードを発信していくインティメイトケア専門のブランドです。
※正しい方法でデリケートゾーンをケアすること
事業やブランドの成長と共に変化してきた
HRCブランドのCS体制
御社も今年の9月で10周年を迎えられるとのことで、事業を立ち上げられた当初から現在に至るまでCSの現場ではどのような課題の変遷があったのでしょうか?
ブランドの拡大とともにCSの体制も大きく変化してきました。最初は社内でお客様の問い合わせに対応するCSチームがありました。しかし、5〜6年ほど前から事業の成長にともない、問い合わせ数も増加し、社内だけでは対応し切れない状態になり、お客様からの問い合わせ対応をアウトソーシングする体制に大きく変更しました。今振り返るとこの取り組みが一番CS体制の変化として大きかったです。この変化により、お客様の問い合わせ対応で逼迫していた社内のリソースを、問い合わせが発生する根本原因の解消のために使えるようになりました。
お問い合わせ対応をアウトソーシングすることで顧客解像度が下がってしまったという声をよく伺うのですが、いかがでしたか?
大きく顧客解像度が下がることはなかったと思います。というのも、HRCブランドではお客様のお声委員会という取り組みがあり、定期的にお客様に直接インタビューを行ったり、座談会を開催したり、お客様のお声を取り入れる仕組みが作られています。そのためお客様からの問い合わせをアウトソーシングした後でも、変わらずお客様のお声を取り入れることができていたと感じています。
問い合わせ対応をアウトソーシングしている状態からさらに、LINEで自動化するに至ったのはどのような経緯がありましたか?
ブランド数の増加と成長にともない、問い合わせ数も増加し、人による問い合わせ対応に限界を感じていました。そこで最初はVIVR※やSMS、カートシステムのマイページなどを活用してお問い合わせの削減に取り組みました。
具体的には、以下のようなステップでお客様からの問い合わせ対応の自動化を進めました。
1: WebチャットとVIVRによる新規顧客の問い合わせ対応の自動化
まずは、LPにWebチャットを導入したり、VIVR※を導入することで購入を検討しているお客様からの問い合わせ対応を自動化し始めました。
※ビジュアルIVRの略称。IVRの音声ガイダンスに加えメニューを表示させ、視覚的に分岐する選択肢を確認、選択することができます。
2:SMSとカートシステムのマイページを用いた既存顧客の問い合わせ対応の自動化
次のステップとして既存顧客の問い合わせ対応の自動化に取り組みました。
具体的にはお電話で頂いた問い合わせ内容に対してIVRを用いてカートシステムのマイページのURLをSMSで送信し、お客様にカートで変更していただくような導線をつくりました。結果としてうまくいった問い合わせ内容もあれば、難しかった内容もありました。例えばお届け日の変更などはカートシステムの仕様上、難しい部分もありました。
3:LINEを活用した問い合わせの自動化
社内の取り組みだと既存顧客の問い合わせを自動化する方法は2の内容が限界でした。
そんな中、スタークス様から共有頂いた事例では、お届け日の変更をはじめ、弊社内のノウハウでは実現できていなかった問い合わせ対応をLINEで自動化することができたため、LINEで問い合わせ対応を自動化するプロジェクトがスタートしました。
※弊社作成のイメージ図
『LINEで自動化する』という新しい選択肢と
未知の取り組みに対する不安
今回のプロジェクトが始まる前や始まった当初、不安なことはありましたか?
CRM施策でLINEは活用していましたが、CSで活用することは初の試みでしたので、未知のツールを利用することへの不安はありました。また、我々は「”理想の姿”を叶える」という理念のもと、お客様と向き合い、関わりを大切にしています。LINEによる問い合わせ対応の自動化は利便性は良くなりますが、お客様に寄り添うという理念の部分で「LINEで叶えられるのか?」と当初は悩みました。
また、他社の導入事例を伺ってはいましたが、「本当にお客様がLINEで問い合わせを行ってくれるのか?」「お客様が意図した通りに動いてくれるとは限らないのでは?」「ブランドごとの細かいルールをLNEで伝え切れない部分も出てくるのではないか?」などスタートする前までは様々な不安を抱えていたと思います。
コスト削減の影響度の高い部分からの着手
問い合わせ内容が明確な導線から自動化をスタート
どんなことに気をつけながら、どんなステップでLINEによる問い合わせの自動化を進めましたか?
まずは、問い合わせが発生しているコミュニケーションチャネルや問い合わせの内容をブランドごとに整理し、コスト削減のインパクトが一番大きい問い合わせが何か洗い出すことに注力しました。その結果、最初は集中して取り組むべき問い合わせの自動化を明確にすることができたと思います。
そして、問い合わせをLINEで自動化させる導線には特に気をつけました。具体的には解約を誘発させない導線を意識しながら、LINEで解約の受付をスタートしました。問い合わせの自動化を進めるのであれば、一律にLINEで自動化することもできると思います。しかし、LINEは手軽に操作することができるので解約を誘発させてしまうリスクもあると思います。
そこで、まずは既に電話で解約の問い合わせを頂いているお客様に対して、「LINEでも解約することができます」という見せ方をすることで解約したいお客様に絞り、問い合わせの自動化をスタートし始めました。
問い合わせが発生しているコミュニケーションチャネルや問い合わせの内容をブランドごとに整理し、コスト削減のインパクトが一番大きい問い合わせが何か洗い出すことに注力しました。
そうはいっても、お客様からの問い合わせは様々な種類の内容があります。商品についての質問や、カラー・サイズ・香りなどの商品変更、お届け日など配送スケジュールの確認や変更、定期商品の解約など多岐にわたります。その中でも、最もコスト削減のインパクトがあった、定期商品の解約希望の問い合わせからLINEによる自動化を進めました。
また、自動化する問い合わせ導線も気をつけました。具体的にはお電話のIVRで解約希望の選択を行った方に絞って「LINEでも解約することができます」というアナウンスを行い、LINEで解約受付を自動化しました。問い合わせ内容が明確な導線に絞ることで自動化の懸念事項やリスクを避け、お客様の利便性が上がるような導線を意識しました。
LINEで解約を受付られるようにすることで解約率が上がるリスクもあったと思います。どのようにこのリスクを考えてましたか?
我々の場合、損益分岐点の目標を決めることで、許容できる解約率なのか否かを判断しています。具体的にはLINEのほうが手軽に解約できてしまうので、コールセンターによる解約とLINEの解約率の差によって発生する売上の機会損失額とLINEで自動化することによって削減できるコールセンターコストの差を計算し、コールセンターとLINE、それぞれどのくらいの解約率を目指せば良いのか目標を定め、コールセンターとLINEで受け付ける問い合わせ数の割合や解約率を調整していきました。現在だと6割のお問い合わせをLINEで自動化することができています。
LINEで自動応対するからこそ
分析しやすいデータが蓄積される!?
LINEで問い合わせを自動化したことでどのような変化がチームにありましたか?
今まではBPO先とのやり取りやマネージメントに時間を割いていましたが、今はLINEの企画を考える時間が増えたと思っています。例えば、解約理由のヒアリングは顧客理解を深めるためにも、解約理由から深掘りしてヒアリングを行いたいと考えています。しかし、お電話だとオペレーター様によってヒアリングできる範囲も変わってきますし、ヒアリングする内容もSVさん※を通じてマネージメントしていただく必要があります。一方、LINEは解約botによってお客様が自ら選択するので、意図したヒアリング内容のデータを集めることができるため、解約理由の分析もし易いです。また、これらの問い合わせのデータをもとに、解約時のシナリオやお客様が求めるサービスのブラッシュアップに繋げることができると考えています。
そして、解約理由を分析すると、LINEと電話では解約理由の傾向が違うこともわかってきました。チャネルの特性が影響するのでどちらの解約理由が正しいというわけではないですが、この結果から新たな解約理由の側面を見つけることができたのは新しい発見でした。
※SVとは、コールセンターのやオペレーターの育成・フォローをするスーパーバイザーの略称
※弊社作成のイメージ図
LINEを活用したCSのデジタル化を行ったと思うのですが、今後のCSのデジタル化の取り組みについてはどのようにお考えですか?
今後はやっていったほうが良いと考えています。電話で解約しかできない定期商品の場合、注文することをためらいますし、20代〜30代はそもそもLPでの販売に胡散臭さや不信感を抱いている人が多いと思います。逆にどんな定期サービスを利用しているか聞いてみると、アプリでいつでも解約・変更をできるサービスが多くなってきていて、若い世代だとデジタルが当たり前になっているのを感じます。なので、20代〜30代の若いユーザーに対してはデジタル化を進めなければ時代遅れになると思っています。
とはいえ、デジタル化の取り組みはターゲットにあわせて取り組むのが良いと考えています。例えば、年齢層が高いターゲットのブランドで同じようにデジタル化を進めて、いきなり「LINEで解約」を案内したとしても混乱してしまうと思います。一方20代、30代に対して電話のみの解約にしてしまうと、働いている日中に電話をかけることは難しいのでユーザーファーストではないと思います。だからこそ、時代の流れとターゲットの状況を確認しながら随時取り組んでいく必要があると考えています。
様々な通販企業のCSを見られている西野様はCSのデジタル化についてはどのようにお考えですか?
時代がDX化を迫っていると感じますし、人々がDX化を求めているとも感じています。
お客様との意志疎通の手段は常に時代とともに変化し続けているので、DX化されていれば良いのではなく常にお客様と向き合い続ける必要があると考えています。
なので、電話やメールだけしかできないというのは今の時代に求められていないと思いますし、今はSNSが普及しLINEが活用されていますが、今後はまた別の手段に変わっていくと思います。だからこそ、この時代の変化をしっかり取り込んでいくことが今後のDXでも重要ですし、HRC様のように取り入れることができている企業が皆さん成長している印象を受けています。
今後のリピートラインに期待していることはありますか?
データ分析をもっと詳しく行っていきたいです。というのも現在はスタークスさんに協力していただきながらデータを出力していますが、今後はもっと様々なデータを詳しく見ていきたいと思っていますし、今の取り組みの大事な資産になっていると考えています。なので今後はもっとLINEで得たお客様のデータをリピートラインを介して私達でも簡単に確認・分析できるようになると嬉しいです。
インタビューにご協力いただきありがとうございました!